重症筋無力症とはどんな病気ですか?

神経と筋肉の接合部(つなぎめ)に伝達異常がおこる自己免疫疾患です。筋肉に疲労がおこりやすくなったり、力がはいらなくなったりします。神経から筋肉への信号伝達に必要なタンパク質を傷害する病的自己抗体を介しておこります。病的自己抗体としては、現在、アセチルコリン受容体(AChR)抗体や筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体が知られています。
なぜこのような抗体がつくられるのかは十分にわかっておらず「難病法」の指定難病に指定されています。

患者数はどれくらいですか?

日本の重症筋無力症患者は年々増加傾向にあり、2014年の特定疾患受給者は22,000人を超えています。2006年の疫学調査では、男女比は約1:1.7であり、女性に多い病気です。発症年齢では5歳以下に小さなピークが見られます。胸腺腫を伴わない重症筋無力症(全体の約80%)については50歳以上の後期発症者が増えており(ピークは65-70歳)、これが新規発症患者全体の半数近くを占めています。胸腺腫を伴う重症筋無力症(全体の約20%)の発症年齢は平均50歳前後です。

どんな症状が出るのですか?

最初に現れる症状として最も多いのは、瞼が下がる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(眼球運動障害)などの「眼症状」です。他に、嚙みにくい(咀嚼障害)、飲み込みにくい(嚥下障害)、喋りにくい(構音障害)などの「球症状」や手腕・足腰などの筋力低下が現れる「全身症状」などがあります。重症例では呼吸筋も麻痺し人工呼吸器を必要とする場合(クリーゼと呼びます)もありますが、最近は頻度が大きく減っています。症状の現れ方や程度には個人差があります。夕方や夜に症状が悪くなる日内変動や、同じ筋肉を繰り返し使うとすぐ疲労し(易疲労性)、休息により一時回復するのが特徴です。

治りますか?

重症筋無力症は、古くは、約1/3のかたが呼吸筋麻痺で亡くなる大変な病気でした。しかし治療の普及により予後は近年大変良くなり、この病気が原因で亡くなるかたは殆どいなくなり、昔と比べると、日常生活を支障なく送ることができる人も多くなりました。(約4割)。しかし治療の効果が不十分な患者や、ステロイドの長期服用等による副作用に悩む患者も多く、さらなる病態究明のための研究と、より有効な治療法の確立が望まれています。

治療はどうするのですか?

経口(口から服用する)薬物療法として、抗コリンエステラーゼ薬(メスチノン、マイテラーゼ等)、ステロイド薬(プレドニン等)、免疫抑制剤(プログラフ、ネオーラル等)などがあります。経口のステロイド薬については、以前は大量、長時間に投与されることも多かったのですが、多様な副作用が高頻度に生じ患者の生活クオリティー障害の主因の1つとなっていることが、明らかとなったため、最近は少なめに用いることが推奨されています。その分免疫抑制剤は早期から使用することが多くなっています。主に全身型(症状が全身や球症状に及ぶ)では、速やかな改善や改善状態の維持を目的とし、経口薬以外の即効性治療(血液浄化療法、免疫グロブリン療法、高容量メチルプレドニゾロン静脈内投与など)も早期から積極的に行われるようになってきています。新薬(分子標的薬など)の開発も進行中です。
胸腺腫合併例では、胸腺腫の摘除を目的に拡大胸腺摘除術がおこなわれます。それ以外の一部の患者(若い発症、AChR抗体陽性かつ全身型)では、胸腺に過形成という異常が生じている場合があり、この場合、拡大胸腺摘除術がある程度の効果を示すため治療選択枝の1つとなります。

日常の注意事項は?

特に注意を要するのが、急速に症状が悪化し呼吸困難をきたす「クリーゼ」で、救急治療が必要です。風邪など感染、過労、ストレス、暑い環境、禁忌薬等により悪化することがありますので、日頃の健康管理や無理のない生活を心がけることが大切です。また、薬の服用を止める等、勝手な判断は危険ですので、医師の指示をよく守りましょう。

重症筋無力症の助けになる制度はありますか?

重症筋無力症は、「難病法」による医療費助成の対象となる「指定難病」の一つです。
重症筋無力症と診断され、「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定以上の場合に、医療費助成の対象となり「特定医療費受給者証」が公布されます。これは重症筋無力症について保険診療を受けた場合に使えます。(助成の対象は1.病院での診察や治療代、2.薬局での薬代、3.訪問看護ステーションが行う訪問看護代)「自己負担上限額」欄に記載された金額を上限とする一部自己負担額を医療機関に支払うことになります。申請手続きは、最寄りの保険所に問い合わせて確認をしてください。
また、医療ソーシャルワーカーを配置した病院の相談室等でも手続きについてご相談いただけます。

★平成30年4月1日より政令指定都市においても地域の難病対策が実施されています。
★各都道府県、政令都市には「難病相談支援センター」が設置されています。ご利用ください。
★福祉制度の利用については、市町村の福祉担当課にご相談下さい。

一般社団法人 全国筋無力症友の会 『しおり』より